感染症について

感染症のイメージ写真

皮膚には体を外界から身体を守る役割があり、常に様々な細菌とも接していますが、その進入を防ぐ働きを持っています。ですので、通常では皮膚に感染症を引き起こすことはありません。ただし、何らかの原因で抵抗力や免疫力が低下していたり、皮膚に炎症やキズがあったりすると感染を引き起こしやすい状態となり、一気に細菌が増えると細菌が持っている病原性が現れ、様々な感染症の症状が現れます。

主な疾患について

白癬症(いわゆる水虫等)

水虫として来院される患者さんの1/3は水虫ではなかったという調査結果があるのを御存知でしょうか。

水虫、医学用語で言うところの白癬症は白癬菌というカビの一種が皮膚の表層に感染することで生じます。足に感染したものが「水虫(足白癬)」、陰部に感染したものが「いんきんたむし(股部白癬)」、手に感染して発症するものが「手水虫(手白癬)」などと呼ばれています。そのため、治療の際にはまずその白癬菌が患部にいるかどうかを調べることが再前提となります。上に書いた自称水虫の方の1/3というのは、検査で白癬菌がいなかった人のことで、白癬とよく似た症状を呈する汗疱湿疹だったり、市販の水虫薬でかぶれていたり、もしくは汗かぶれだったりすることがあります。ですので、「水虫かもしれない」と思われた方は、ちゃんと皮膚科を受診して白癬菌が患部にいるかどうかをちゃんと調べることが非常に大事です。また、患部のどこを調べても白癬菌が検出できるというわけではないので、きちんと専門医として検査することができる医師の元での検査をおすすめします。

また、足白癬はそのまま放置した場合、爪に感染して「爪水虫(爪白癬)」を発症することがあります。すると爪が厚く白くなり、もろくなっていきます。場合によっては大きく変形して元に戻らないこともありますので、早めに治療するほうが良いです。

治療としては、主に抗真菌薬の外用剤を用います。角化型足白癬という病型や爪白癬の場合は、内服剤を用いる場合もあります。我流での治療では再発しやすい疾患ですので、是非皮膚科を受診頂ければと思います。

蜂窩織炎(ほうかしきえん)

蜂窩織炎とは蜂巣炎(ほうそうえん)ともいい、皮膚とその下の脂肪組織に細菌が感染し、炎症が起こる疾患です。皮膚の感染症の中では、伝染性膿痂疹(とびひ)、丹毒などと並び比較的多く見られる病気です。皮膚の傷などから細菌が侵入し、よくみられるのは足の脛や甲、ふくらはぎにかけての部位と言われていますが、全身のどの部位でも発症し得る疾患です。

蜂窩織炎を発症すると、初めに炎症を起こした部位に皮膚の赤み、腫れ、熱感、痛みが出現し、急速に範囲が広がっていきます。通常は複数の部位に同時に発症することないと考えられています。しかし、発熱や悪寒、倦怠感などの全身症状を引き起こす場合もあり、敗血症に移行して命に関わるようなケースもみられます。

蜂窩織炎の治療としては、抗菌薬の内服または点滴による薬物療法を行います。原因となる細菌はほとんどが連鎖球菌およびブドウ球菌で、軽度の場合は内服薬による通院治療を行いますが、全身症状を伴う重症の場合や、糖尿病や他の病気でステロイドを使用しており、感染が重症化するリスクがある方、免疫不全などを起こす病気で治療中の方などは、入院して点滴による治療を行います。

丹毒(たんどく)

丹毒は皮下組織よりも浅い真皮レベルでの皮膚細菌感染症で、主に連鎖球菌の感染によって起こるものです。症状としては、高熱や悪寒、全身の倦怠感などが生じ、皮膚に境界がはっきりとした赤い腫れが現れ、急速に周囲に広がります。表面は皮膚が張って硬く光沢があり、その部分は熱感があって、触れると強い痛みがあり、水疱や出血斑を伴うこともあります。顔面や四肢に多く見られ、近くのリンパ節が腫れて痛みを生じる場合もあります。人によってはクセになって何度も繰り返す(習慣性丹毒)ことがあるため、十分な治療をすることが重要です。

伝染性膿痂疹(とびひ)

とびひ、とも呼ばれる伝染性膿痂疹は、小児期に多く見られる病気です。あせも、湿疹、かぶれ、虫刺されなどを引っ掻くことで爪などから黄色ブドウ球菌や溶血性連鎖球菌などの細菌が侵入して繁殖し、患部を触った手で他の部位を触ることで飛び火する、すなわち身体のあちこちに拡がってしまうものです。

とびひの中でも、黄色ブドウ球菌によるものは主に水疱ができ、水疱性膿痂疹と呼ばれます。溶血性連鎖球菌によるものはかさぶた(痂皮)が主にでき、痂皮性膿痂疹と呼ばれます。強い炎症が特徴で、痛みの症状も強くなります。発熱やリンパ節の腫れ、のどの痛みを伴う場合もあります。

とびひは悪化すると、全身にやけどのような水疱を形成する「ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群」や、「敗血症」など重篤な合併症を引き起こす危険がありますので、早めの受診をお勧めします。

治療には抗菌薬を使用します。症状が軽い場合は外用剤(塗り薬)を用いますが、症状の範囲が広がっている場合や発熱がある場合は内服の抗生剤(飲み薬)を用います。抗菌薬が効きにくい耐性菌が原因となるケースも近年では増えていますので、治療の際には原因菌を調べる培養検査をすることも重要です。かゆみが強い場合は抗ヒスタミン薬や、炎症が強い場合は亜鉛華軟膏を用います。

伝染性膿痂疹では患部をきれいに洗うことが非常に重要で。石鹸で原因となる菌を洗い流し皮膚を清潔に保つだけでも症状が良くなることも多いです。古くは「傷は濡らさない方が良い」と言われていた時代もありましたが、近年では積極的に洗う方が良いとされていますので、状況によっては沁みるかもしれませんがちゃんと洗うようにしてください。また、ほかの人に感染を広げないようにすることも重要です。お子様の場合、登園・登校をしてよいかどうかも含め、ご相談ください。

単純ヘルペス/帯状疱疹

単純ヘルペスウイルスが原因となって発症するものに、口唇ヘルペスと呼ばれるものがあります。これは唇やその周辺にかゆみやチクチク・ピリピリとした違和感が現れ、さらに痛みを伴った赤い小さな水ぶくれができる感染性の疾患です。多くの場合、子供のころに初めて感染し(この時は無症状のことが多い)、それが体内に潜伏していて、風邪やストレスなどで体力が落ち、免疫力が低下しているときに、ウイルスが再び活性化して症状が現れます。抗ウイルス薬の内服もしくは外用で治療をします。通常は受診時の症状分の薬しか処方できませんが、近年では年3回以上再発を繰り返す方に限り2回分まで処方することができますので、御希望の方はお申し出ください。

また、帯状疱疹は同じヘルペスウイルスの中でも、型が異なる水痘・帯状疱疹ヘルペスウイルスが原因となって発症します。これは小児期に罹ることが多い水ぼうそう(水痘)のウイルスと同じものです。水ぼうそうが治った後も、ウイルスの一部は神経に棲みついてしまっています。それが再び活性化してしまうと、神経に沿って帯状に痛みや疱疹が現れます。神経は左右別々に伸びているため、身体の左右どちらかに現れることが特徴です。

帯状疱疹は、水疱が消えた後も、ピリピリとした痛みが後遺症として残る場合があります。この場合、帯状疱疹神経痛と呼ばれ、長期にわたり続くこともあります。また神経に影響を与えることで、視覚障害や聴覚障害、顔面神経麻痺などの合併症を引き起こす危険もあります。帯状疱疹のウイルスも免疫力の低下がきっかけとなって引き起こされますが、その要因としては過労やストレスのほか、加齢も挙げられており、60歳代を中心とした高齢者に多く見られる傾向があります。

帯状疱疹の治療としては、なるべく発症初期に、抗ウイルス薬の内服でウイルスの増殖を抑制し、水疱や痛みの症状を軽減し、早期の治癒を図ります。通常は抗ウイルス薬の内服を1週間、水疱が治るまでもう1週間、違和感が取れるまで更に2週間程度かかることが多いです。痛みが治まらない場合は、消炎鎮痛剤や神経障害性疼痛治療剤などで治療をしますが、難治の場合には痛みの専門科であるペインクリニック科を御紹介します。後遺症や合併症を引き起こさないことが大切ですので、なるべく早期の治療開始が大切です。