脱毛症について

脱毛症のイメージ写真

一般的に脱毛症とは、頭髪が通常以上に抜けてしまい、最終的に頭皮が露出した状態になるものです。人の毛髪は、正常な状態でも毛周期という一定のサイクルで、「抜けては生える」状態を繰り返しています。これが何らかの原因で抜ける毛髪が多くなってしまい、脱毛症となります。

男性に多く、日本人男性では50歳代以降の約40%に脱毛症がみられるとされています。これは多くの場合、男性ホルモンが作用する男性型脱毛症(AGA)です。他には毛母細胞が障害されることで発症する円形脱毛症、生まれつき全身の体毛が少ない先天性脱毛症、さらには自分で頭髪を抜く癖が病的に強いトリコチロマニア(抜毛症)というものもあります。

主な疾患について

円形脱毛症

円形脱毛症は、毛根と呼ばれる部分が炎症により障害されてしまうことで発症します。コインのように円形の脱毛斑が生じるのが特徴ですが、その原因となるメカニズムは、まだ明確にはわかっていません。重症の場合は脱毛斑がどんどんと大きくなったり、多数の脱毛斑が現れたりすることもあります。

ストレスや遺伝、栄養不足が関与しているとの説もありますが、アトピー性皮膚炎やバセドウ病などを合併することが多いため、免疫異常が関わっているとも考えられています。本来、細菌やウイルスなどの外敵から自分の身体を守る役割を持つ「リンパ球」と呼ばれる細胞が、誤って毛根を含む毛包を攻撃してしまうことによって生じるというのです。

円形脱毛症の場合、単発で範囲が小さい方は自然に治癒することが多いですが、症状が改善しない場合や範囲が広い場合にはステロイドの外用薬や注射、局所免疫療法、光線療法の一種であるエキシマライト療法、凍結療法などが行われます。また、症状の悪化が急激だったり、頭全体に脱毛が生じる可能性がある場合には、入院治療などのため総合病院に紹介する場合もあります。

円形脱毛症の治療に関しましては、以下もご参照ください。

円形脱毛症に対するDPCP(Diphenylcyclopropenone)による局所免疫療法

男性型脱毛症

男性型脱毛症(AGA/Androgenetic Alopeciaの略)は男性ホルモンの影響によって引き起こされる脱毛症です。AGAは生理現象といってよく、病気ではありません。痛みや痒みなどの症状はなく、前頭部や頭頂部を中心に、多くは左右対称に、薄毛、脱毛が進みます。早い場合は思春期以降に始まることもあり、徐々に進行していきます。まず、髪のハリやコシがなくなっていき、産毛のような弱々しい毛に置き換わって、その後に徐々に脱毛が進んでいきます。

原因としては、毛包の毛乳頭細胞や毛母細胞に存在する「Ⅱ型5αリダクターゼ(還元酵素)」が大きく関与しています。これが男性ホルモンである「テストステロン」を、より強力な男性ホルモン「ジヒドロテストステロン」に変換する特徴を持っており、このジヒドロテストステロンが毛母細胞の分裂を抑制することで、AGAが発症します。AGAの特徴として、前頭部と頭頂部の毛髪が薄くなり、最終的には毛髪がない状態になってしまうことが挙げられますが、特に前頭部と頭頂部に症状が現れるのは、Ⅱ型5αリダクターゼが同部位の細胞に多く存在しているからです。

男性型脱毛症の治療に関しましては、以下をご参照ください。

AGA治療について
(デュタステリド、フィナステリド)

トリコチロマニア(抜毛癖)

トリコチロマニア(抜毛癖)とは、抑えきれない衝動により自分で自分の毛髪を引き抜いてしまうものです。小学校から中学校までの学童期での発症が多くみられ、男女比では女性、特に思春期の女児に多くみられます。強迫症の一つと考えられており、精神疾患を分類するDSM-5でも「強迫症および関連症(Obsessive-Compulsive and Related Disorder : OCRD)」に分類されています。

抜毛症では、毛髪が少なくなるほど毛を抜いてしまい、毛を抜く行為をやめようとしてやめられず、そのために強い苦痛を感じ、日常生活にも支障をきたしてしまいます。抜くのは毛髪にとどまらず、眉毛や睫毛を抜く場合もあります。

抜毛してしまう原因としては、親の過干渉や両親の離婚などの家庭環境や学校生活、友人関係における問題が影響しているとの指摘が報告されており、例えば周囲の期待に応えられないなどの不安が強いストレスとなり、発症することが多いと考えられています。ストレスを我慢し続け、それを和らげるひとつの手段として、抜毛してしまうというのです。

抜毛は無意識に行われる場合も多く、本人が抜毛していることを認めないことも多くあります。お子様の場合、不自然に脱毛していたり、枕やブラシに髪の毛はあまり付着していないものの、勉強机の周辺などに抜け毛が落ちていたりといった際は、抜毛症の疑いがあります。

治療としては、精神的ストレスを我慢し、それから抜毛行為によって逃避することを願うため、抜毛癖ではストレスの原因となっている人間関係や環境変化を理解することが大切です。お子様に対しては、むやみに抜毛行為を叱らないことが大切です。その上で、心療内科・精神科などに相談する必要があります。当院では必要と判断した場合、専門科をご紹介いたします。

分娩後脱毛症

女性特有の薄毛、抜け毛症状のひとつに、分娩後脱毛症があります。これは出産後、一時的に髪が抜けるもので、多くは出産後およそ6ヶ月~1年で自然に回復していきます。原因はホルモンバランスの崩れにあると考えられています。

女性は妊娠すると、女性ホルモンであるエストロゲン、プロゲステロンの分泌が次第に増加します。妊娠後期になると、大きくなった胎盤からも女性ホルモンが分泌されるようになるため、女性ホルモンの分泌量が最大になります。

妊娠中に増える女性ホルモンのエストロゲンには、妊娠を維持する働きの他にも、頭部の毛髪の成長を促したり、維持したりする働きもあります。妊娠中はエストロゲンの分泌量が増えるため、ヘアサイクルにより本来なら抜けるはずの髪の毛が、抜けずに維持されます。しかし、出産が終わると、エストロゲンの分泌が一気に減るので、今まで維持されていた髪の毛が抜けるため、出産後に脱毛症が現れる方が多くなります。

分娩後脱毛症は、多くは出産後6カ月~1年ほど経ち、授乳を終えるころには自然回復します。ただし回復スピードには個人差があり、中には回復まで長く時間がかかることや、高齢出産で体力の回復が遅い場合には、完治しない場合もあります。さらに産後に育児などのストレスなどが重なった場合や、睡眠や食事の乱れが生じた場合に、脱毛症が悪化してしまう場合もあるため注意が必要です。

分娩後脱毛は妊娠、出産を経験した女性なら、よくある症状の一つですので、あまり気にせず、ストレスを溜めないようにすることも大切です。また休息をなるべくしっかりと取り、生活のリズムや栄養バランスに気を付けることも重要です。

薬剤による脱毛

薬剤による脱毛、いわゆる薬剤性脱毛症は、抗がん剤などの薬剤の投与により、髪全体が薄くなったり、髪が細くなったりする症状を指します。脱毛を誘発する薬剤としては、抗がん剤のほか、C型肝炎の治療薬であるインターフェロンがよく知られています。他にも様々な薬剤に脱毛を促進してしまう作用がありますが、抗がん剤とインターフェロンは特に脱毛の副作用が現れるものとなっています。

抗がん剤やインターフェロンは、特定のがん細胞や細菌の働きを抑止するために使用するものですが、その一方で効果を高めるため毒性も強く、健康な細胞にも攻撃を加えてしまいます。髪の毛母細胞は、最も薬の影響を受けやすい器官の一つで、薬剤を長期にわたって使用することにより、毛根自体の働きが失われ、脱毛に至ってしまいます。

こうした薬剤による脱毛症は、本来、正常に活動していた毛髪の新陳代謝を薬の作用によって阻害することによって生じていたものですので、薬の投与を中止すれば、特に治療をしなくても、次第に回復していきます。残念ながら抗がん剤を使用したまま発毛を図ることは困難です。また、抗がん剤の種類によってはその投与を中止しても十分な発毛が期待できないものもあり、特に乳がんに対する抗がん剤には注意が必要です。

その他、内服をして数ヶ月後に髪が抜けてくる薬剤性休止期脱毛という脱毛症もあります。発症まで数ヶ月かかることもあり、なかなか薬剤が原因と気付くことができないことが多く、注意が必要です。

感染症による脱毛

感染症による脱毛、いわゆる感染性脱毛症とは、細菌やウイルスなどによる様々な感染症が原因となって引き起こされる脱毛症のことです。感染性脱毛症の原因となるものとしては、主に、白癬菌(皮膚糸状菌)という真菌(カビ)による脱毛症と、梅毒トレポネーマという梅毒の病原体による脱毛症に分かれます。

白癬菌による脱毛は、頭皮の水虫(頭部白癬)と呼ばれるもので、「しらくも」と呼ばれることもあります。感染初期では髪の毛が抜けたり折れたりしやすくなるなどの症状がみられ、次第に円形に脱毛が進み、皮膚の角質層が剥がれ落ちてフケのようなものが大量に発生します。円形脱毛症と間違えてしまうこともあり、治療法が異なるので注意が必要です。

進行していくと、円形のまま脱毛範囲が次第に広がっていきます。痒みや痛みなどの症状はあまりありませんが、頭皮が赤くなったり、かさぶたのようなものができたりする場合があります。頭部白癬の治療は早期に開始しないと、永続的な脱毛状態となってしまうことかあります。近年では、身体の接触を伴うスポーツをする選手間で感染が拡大している白癬症もあるので、思い当たることがある方は当科を受診ください。

また梅毒の病原体による脱毛症は、性行為によって感染する梅毒が進行することによって発症します。梅毒は潜伏期間があり、梅毒に感染してから約3ヶ月~6ヶ月で脱毛症状が現れるとされています。頭部の後ろからサイド部分にかけて広範囲に脱毛したり、ところどころ小さな斑に抜けたりするのが特徴です。また、眉毛や睫毛に脱毛が生じる場合もあります。痒みや痛みを伴わないので、梅毒の感染に気付かないことも少なくありません。一見、円形脱毛症と似た症状となるため、感染の可能性に思いあたりのある方は検査をして感染の有無を確認することをお勧めします。

感染性脱毛症は、放置しても自然治癒で治ることはほとんどありませんが、抗真菌薬や抗生物質などを投与することで原因となる感染症を治療することができ、髪の毛を産生・再生する細胞組織が完全に破壊されていない限り、同時に脱毛症状も解消されます。具体的には、頭部白癬は、抗真菌薬を内服することで治療が可能です。また、梅毒性脱毛症は、ペニシリン系やテトラサイクリン系の抗生物質を内服することで治療が可能です。

その他の脱毛

その他にも膠原病やホルモン異常、栄養障害など様々な原因で脱毛症になることがあります。近年では、COVID-19(いわゆるコロナウイルス)にかかった後の脱毛症が話題になっていましたが、これはCOVID-19感染時の症状が非常に重篤であったことによって毛髪の周期に異常を生じ脱毛に至る休止期脱毛が多いといわれています。残念ながら原因が特定困難な脱毛症もありますが、お困りの方は一度御相談ください。